患者さんは3歳の雄猫(4.1kg)です。何度もトイレに行きたがり、排尿困難を示したため受診されました。食欲の低下と元気消失も認められました。体温は39℃で、レントゲン検査を実施したところ、膀胱内に多量の尿が貯留していました。カテーテルで排尿し、尿検査を実施しました。その結果、尿は赤褐色を帯び、著しく混濁、球菌と白血球が多数認められたことから、細菌性の膀胱炎と診断しました。検査成績、処置および経過は下記のとおりです。
尿検査成績
肉眼検査:色調(赤褐色)、混濁(+++)、遠心分離後の沈渣(+++)
ウロペーパー:蛋白(+++)、ブドウ糖(+)、pH(6)、潜血反応(ヘモグロビン++、赤血球+++)
顕微鏡検査(写真参照):結晶(+)、細菌(+++)、赤血球(+++)、白血球(+++)、精子(+++) 細菌培養成績
尿の細菌検査を実施したところ、ブドウ球菌が純粋かつ多量に分離されました。
分離されたブドウ球菌の薬剤感受性試験は以下のとおりです。
アンピシリン(+++)、クラリスロマイシン(-)、ドキシサイクリン(-)、
クロラムフェニコール(+)、オルビフロキサシン(+)、エンロフロキサシン(+) 処置と経過
カテーテルで排尿後、直ちに生理食塩水で膀胱洗浄を行いました。尿検査で、尿中に精子を多量に認めたことから、飼い主さんの了解を得て去勢術を実施しました。これは膀胱内に精液が貯留することにより細菌が増殖しやすくなると考えられ、去勢により早期の回復と再感染を防ぐことが期待されるためです。また去勢により前立腺肥大の問題も排除されます。尿検査で蛋白質とブドウ糖が検出されたのは、おそらく精液成分に反応したものと考えられました。尿中に細菌が多数認められたことから、術後、クロラムフェニコールとオルビフロキサシンの2種類の抗生物質を処方しました。翌日判明した分離菌に対する薬剤感受性試験で、アンピシリンに強い感受性が認められたことから、クロラムフェニコールをアンピシリンに切り替えました。その後、食欲も回復し排尿も正常に行っているとのことです。
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